変性意識状態
altered states of consciousness, ASC
変性意識状態(ASC)とは、脳が基底状態や通常の意識と大きく異なるような状態である。これは脳のそのもの状態を指すのではなく、脳がASC状態を形成するのである。脳の状態は客観的なことがらだが、たとえば脳波(EEG)の値などで定式化するのには問題があると思う。もし脳波で脳の状態を測れるなら、私はいびきや咳をする数を数えたり、ASCのように昏睡していたり死んだように眠るのを測定したりはしないだろう。脳の状態の指示値は脳の活性や不活性を明らかにしてくれるが、ASCのよい指標になるとは思えない。たとえば、アルファ波はASCでも同定されているが、これは実際には脳の視覚化処理を測定しているのにすぎない。
基底状態の脳は、2つの重要な主観的特徴が現れることで定義できるだろう:心理的に自我が知覚の中心で認識されることと、この自我が肉体とは別物と認識されることである。肉体や知覚との一体性の認識を "失う" 意識状態は、あきらかに ASC である。こうした状態は自動的に発生し、心的外傷や睡眠障害、無感覚や過敏感覚や神経化学的アンバランス、熱病などで誘発される。これらは、狂乱的舞踏や詠唱などの社会行動でも誘発される場合がある。向精神薬を摂取しても誘発される。
催眠状態はじつは ASC なのだという主張は、たしかに両者にしばしば類似性が見られるものの、疑問である。催眠状態は、ある種の記憶喪失症患者に単語をいくつか見せた場合とよく似ている。後者では、被験者には単語を見せられた記憶はないが、単語が暗示的に記憶されている。私は、記憶喪失を ASC とは呼ばないと思う。
ASCが、被験者をより高い意識や真実の存在する卓越した領域に送り込む、という証拠はない。この迷信はチャールズ・タートなど超心理学者たちのおかげで広く信じられている。ASCで生じる感覚にはさまざまなものがあり、たとえ思い違いや自己欺瞞であっても爽快なものもある。たとえば、神秘体験は脳の状態の範疇を越えてしまう。マイケル・パーシンガーは脳に電気刺激を与えることによって存在意識や幽体離脱、そのたの神秘主義的な感覚を再現している。LSD やメスカリンなどのドラッグを使って、多くの人が宗教的体験を再現している。ほとんどの宗教では ASC を理想状態としている:肉体と自我を失って、ある種の聖なる存在と一体化するのである。この点では、ASC を追い求めるのは自我を捨て去ることと同じである。
参考文献
Beyerstein, Barry. "Altered States of Consciousness," in The Encyclopedia of the Paranormal, edited by Gordon Stein (Buffalo, N.Y.: Prometheus Books, 1996). $104.95
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Spanos, Nicholas P. Multiple Identities and False Memories: A Sociocognitive Perspective (Washington, D.C.: American Psychological Association, 1996). $29.95
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