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ジョン・メイナード・ケインズ『お金の改革論』(1923)

はじめに

 われわれは貯蓄を民間投資家に任せるが、その貯蓄は主にお金に対する所有権という形で保有するように奨励する。生産を稼動させる責任はビジネスマンに任せるが、そのビジネスマンは、お金という形で得られそうな利潤に主に影響される。既存の社会構造を劇的に変えたいとは思っていない人々は、こうした仕組みが人間の性質に沿ったものであり、大きな利点を持っているのだと考えている。だがその人々が安定した物差しだと信じているお金が頼りにならなければ、この仕組みはきちんと機能できない。失業、労働者の危うい人生、期待の当て外れ、貯蓄の突然の喪失、特定個人への過剰な予想外の収入、投機家、不当利得者——こうしたものはどれも、相当部分はこの価値の尺度が不安定なために生じるのだ。

 しばしば生産費用は三層構造になっているといわれる。労働に対する報酬、事業性に対する報酬、利潤蓄積の三つだ。だが第四の費用がある。それがリスクだ。そしてリスクを負うことに対する報酬は生産の負担として最も重いものであり、そして最も回避しやすいものかもしれない。価値の基準が不安定なために、このリスクという要因にはかなり拍車がかかっている。我が国や世界全体でのしっかりした金融原理の採用をもたらす通貨改革は、\kenten{リスクによる}無駄をなくす。これは現在では人々の財産をあまりに多く消費してしまっているからだ。

 保守的な概念が最もぬくぬくとしているのは通貨の分野だ。だがイノベーションの必要性が最も高いのも通貨の分野なのだ。銀行業界は自分の問題を理解する知的能力を持ち合わせていないので、通貨問題の科学的な取り扱いは不可能だという警告をしばしば受ける。これが本当なら、銀行業界が代表する社会の秩序は衰退する。だが私はそんなことを信じてはいない。欠けていたのは、与えられた分析を理解する能力ではなく、本当の事実に関する明確な分析だ。随所でいま発達中の新しいアイデアがしっかりした正しいものであるなら、いずれそれが普及することを私は疑っていない。本書を、謹んで特に断りもなしに、イングランド銀行の理事や評議会に捧げる。彼らは現在そして今後、これまでよりはるかに難しく不安な仕事を託されているのだ。

J・M・ケインズ
1923年10月

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2011.10.01 YAMAGATA Hiroo (hiyori13@alum.mit.edu)


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