(Last update:1999/10/24)

ちいさいおうち(+終り)について

― 住人より ―

長々と書いてきたが、このサイトは、さんざん語られてきた「ちびくろサンボ」について、 さらに語ろうとするものではなく、これまで語られてきたことを相殺するための中和剤を 目指して作られたものである。

願うのはただ、作品を純粋に味わってもらうことだ。

ごたくは必要ないのであり、それさえわかってもらえれば、他の文章といっしょに、 このサイトも忘れてもらってかまわない。

この文章も、もうこれで終わりだ。

こうしてごたくは消え去り、あとに「ちびくろサンボ」だけがのこる……
となれば幸いである。

……こんなふうなことを、この「ちいさいおうち」のおしまいに書ければいいと思う。 生まれたばかりで先に遺書を残すようなものだけれど。

上の引用は『逮捕+終り』の翻訳者・頭木弘樹氏*による巻末の1頁の、 「カフカの作品」のところを「ちびくろサンボ」におきかえたものだ。

純粋に味わう――「純粋」とはどのようにして可能なのだろう。 同じように、「自由」もまた。 どちらの言葉も、私は自分の言葉として用いることに、おもはゆさを感じ、 気おくれもしてしまう。自分はまだそれを知ってはいない、という思い。 (知るとは行なうことだから)

けれどもここは、直接それらの言葉を使わないまでも、 それの周辺をぐるぐる回って、しまいにとけてバターになってしまうほどに ぐるぐる回ることをする場所なのかもしれない。結局のところ。

それも悪くない。そうやっておいしいパンケーキを焼こう。 あとにちびくろサンボの笑顔がのこればいいのだから。


* 『「逮捕+終り」−『訴訟』より』 カフカ著、頭木弘樹訳・評論、創樹社
頭木氏のウェブサイトで 公開されていた原稿が出版されたが、 ウェブでも全文を読むことができる。

 

おうち