マルチ商法、マルチレベル マーケティング(無限連鎖講)
multi-level marketing (別名 network marketing)
マルチ商法とは、商品の販売よりもディストリビューター(販売員)の勧誘を強調する商法である。このため、システム自体に本質的な欠陥がある。しかし、マルチ商法は非常に魅力的なのである。というのも、マルチ商法は希望を売りつけるし、一般的なビジネスの主流と一線を画しているように見えるからである。マルチ商法は全員に財産と自立を約束するのである。残念ながら、マルチ商法はどんな製品を売ろうと、勝者より多くの敗者を生み出して破滅するのである。マルチ商法では、まっとうな生活をし、あるいはまっとうな副収入を得ているディストリビューターの下には、ただ製品や販促資材をマルチで稼ぐよりずっと多くの金をかけて買うだけの人が、少なくとも10人いるのだ。マルチ商法の中で最も成功しているのは、世界中で200万人ものディストリビューターを擁するアムウェイである。
マルチ商法が成功しない理由は、マルチ商法が本質的には合法的ピラミッド型組織だからである[訳注1]。基本的なアイデアとして、販売員はより多くの販売員を勧誘することになっている。これは商品を供給する会社の側からすれば、非常に有効である。というのも、マルチ商法では、販売員は同時に顧客となるからである。しかし、自分が勧誘した相手は、勧誘においては必然的に競争相手となるのだ。販売員が、勧誘によって競争相手を増やすことが自分の利益になると考えているが、それがいったいなぜなのか、不思議である。
[訳注1:合法的というのはアメリカでの話。]
マルチ商法の背後にある考えは明らかである。たとえば、あなたがある製品を売るとしよう。マルチ商品として典型的なのは、ビタミン剤やミネラルといった万能薬の類だ。まず、あなたはほとんどの商売と同じ方法で製品を売ろうと考える:直接顧客に売るか、それとも、あなたから製品を買いとって、ほかの誰かに売ってくれる相手を探すのである。ところが、マルチ商法の組織では、製品を売り買いする相手だけでなく、売り買いする別の相手まで探してきてくれる相手を求めるのである。しかも、それが無限に続くのである。ここで決して存在しないのは、無限に広がる市場だけである。伝統的なビジネス市場にいるあなたには、おかしな話に聞こえるだろう。なんでわざわざ競争相手を勧誘する必要があるのだろうか?自分が売るのと同じ製品を、自分が勧誘した相手が売りはじめたら、いったいどうなるだろうか?マルチ商法のからくりでは、競争相手を勧誘するのが合理的なのだ、とあなたを言いくるめてしまう。あなたが勧誘した相手は、収益の中から一定のマージンをあなたに納めてくれるのだから、じつは競争相手ではないのだ,というのである。こう言われると、あなたは自分の町や顧客市場がどれほど小さく有限なのか,という事実から目をそらしてしまうことになる。井戸が干上がるのは時間の問題なのだ。たしかに、マルチ商法ではいつでも、マルチ組織から金を儲けるものが何人か存在する。しかし、大多数はピラミッド組織のもつ本質的欠陥ゆえに敗れ去るのだ。
マルチ商法の会員になってもメリットがないと言っているわけではない。必要経費として税額の一定分は控除されるだろう[訳注2]。あなたは製品を買い、その中には気に入ったものがあるかもしれない。販促決起集会に顔を出し、それはそれでけっこう気に入るかもしれない。新しい友人に出会い、さらにその友人が小遣いをくれるかもしれないのだから。しかしほとんどの場合、あなたは売るより多くの製品を買わねばならないのだ。つねにものごとをポジティブに考えなければならない。たとえそれがウソ偽りという意味であっても。ひとから尋ねられればいつでも、自分が素晴らしいことをしており、ビジネスはワンダフルで、物事はそんなに速く進まないし、そんなに急に儲かるものでもない、と言い続けなければならないのである。
[訳注2:あくまでアメリカでの話である。日本でアムウェイをやっても、税の控除が効くかどうかは知らない。詳しくは税務署へ。]
マルチ組織の危険性はほかの人達もはっきりと指摘している。もしあなたがマルチ商法に加わろうかと考えているなら、その前に、まずディーン・ヴァン・ドラッフのマルチ商法の問題点 (What's Wrong With Multi-Level Marketing) か、ロバート・フィッツパトリックの偽りの利益 -- マルチ商法とピラミッド組織における財政的、心理的配当に関する考察 (False Profits - Seeking Financial and Spiritual Deliverance in Multi-Level Marketing and Pyramid Schemes) を読んでほしい。
最後に、よりよい生活を求めて、また隣人にもよりよい生活を望む、合理的人間のグループを、想像してみてほしい。もし、こうしたグループが新しい社会を始めて、そして合理的な経済システムを構築しようとしたら、マルチ商法はその新しいシステムの一部となるだろうか?私はそうなるとは思わない。正しい考えを備えた人ならば、マルチ商法を消費材が流通して消費されるべき、まっとうな手段とは考えるだろうか?また、マルチ商法を合理的な経済システムの構成要素だと考える経済人が、いったいどれほど存在するだろうか?人に商品を売り、そして自分の商品を売るのではなく、売った相手にもっと商品を他人に売るよう促す。こうしたアイデアは、反合理主義だと思う。
関連する項目:アムウェイ (Amway)、マルチ商法の被害 (multi-level marketing harassment)、ピラミッド型組織 (pyramid schemes)。
参考文献
Fitzpatrick, Robert L. and Joyce Reynolds. False Profits - Seeking Financial and Spiritual Deliverance in Multi-Level Marketing and Pyramid Schemes (Charlotte, N.C.: Herald Press, 1997). See my review of this book.
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