フリッツ博士 Dr. Fritz
フリッツ博士とはブラジル人の肉体に憑依して、その人を治療師に仕立てあげる幽霊である。彼の最初の犠牲者 Z・アリグ(1918-1971)は、自分は第一次大戦中に死亡したドイツの医師アドルフ・フリッツ博士にチャネリングしているのだ、と公表した。このアドルフ・フリッツなる人物に関する調査は、ブライディー・マーフィーに関する調査と比べても、実りのない結果に終わっている。はっきり言って、この人物がかつて存在していたという証拠すら見つかってはいないのだ。そんなことはどうでもいいのだ。信仰治療はブラジルではビッグビジネスであり、アリグは魔術医あるいは祈祷師として一躍名を馳せた。彼は悪魔にとり憑かれていると考えられていたが、憑き物は結局のところドイツの医師で、理由はアリグとその憑依霊にしかわからないが、アリグの肉体を乗っ取って病人のために判読不能な処方箋を書いたのだ。処方箋を読めたのはアリグの薬剤師の兄だけだった。フリッツ博士に治療してもらおうと、たくさんの人が遠方からも訪れた。彼は少しばかりの心霊手術で有名なブラジルの乗員議員の肺からガン性腫瘍を除去したと主張し、その後彼の名声は一躍高まった。アリグはブラジルの大統領の娘を含む何千もの人を``治癒''したため、その名声は20年間幅広く流布した。名声とはうらはらに、彼は非合法な医療行為の罪状で有罪宣告を2度受けている。アリグは1971年に自動車事故で死亡した。
だがフリッツ博士はこれで仕事を終えたわけではなく、すぐに別のブラジル人の肉体に忍び込んだ。アリグが自動車事故で死んだとき、フリッツ博士は別の肉体を選んで憑依したのだ。彼はこれを何度もやっている。フリッツ博士が憑依した中でもっとも有名なのは、レシフェ出身のエドソン・クエイロス(1954-)と、現在彼のチャネラーとなっているサンパウロのルーベンス・ファリアス・ジュニアの2人だ。うわさによると、クリストファー・リーブはルーベンス・ファリアス・ジュニアの治療を受けているそうだ。フリッツ博士の最新バージョンはなかなか教育水準が高く、アストラル体を治療する。ルーベンス・ファリアス・ジュニアはルドルフ・シュタイナーの人知学やブラヴァッキー女史の神知学の教えに走って、カトリックの修養を放棄したらしい。シュタイナーやブラヴァッキーと同様に、彼も神秘主義を好んでいる。病気の場合はアストラル体をこそ治療する必要がある、としているのだ。このアストラル体とは、物理的な肉体の複製だがより優れた物質からで構成されているというものだ。物理的な肉体はアストラル体に``エナジー・ヒーリング''を施すことによって治癒できるという。だがこれができるのは特別な神秘主義者だけだ。残念ながら、フリッツ博士はファリアス・ジュニアが暴力的な死を迎えるだろうと予言しているから、神秘の魔法を実践するのはそう長い間のことではないだろう。
医師免許もなしに非合法な医療行為をおこなっているとして批判されているにもかかわらず、治療を求めてファリアス・ジュニアのもとを訪れる人はひきもきらず長蛇の列をなしている。ブラジルにおける強い魔術医信仰は、アフリカ系ブラジル人の宗教であるカンドンブレにまでさかのぼるが、近年のフリッツ博士はブラジル人がニューエイジの神秘主義的アイデアにも弱いことを示している。
もしフリッツ博士をお捜しなら、見つけるのは簡単だ。だが注意した方がいい。彼はあなたを気に入って、あなたにとり憑いてしまうかもしれないのだ。こうしたことに準備するには、結局はパーソナル・エナジー・バランシングの講習を受けた方がいいかもしれない。
参考文献
Randi, James. An Encyclopedia of Claims, Frauds, and Hoaxes of the Occult and Supernatural, (N.Y.: St. Martin's Press, 1995). $11.96
|