Robert Todd Carroll SkepDic 日本語版 |
心理学 psychology心的プロセスと行動に関する科学。
心理学には、ポストマンが指摘したようなものに見える、そんな側面がある。心理学者は、たとえば「アメリカで毎年30000件と推定される自殺の中で、絶望はほとんど常に主要因となっている」とか、「絶望に関する主要な研究2報で、ストレスとなる出来事--死や離婚その他の情緒的危機--が、本来なら健康であるべき人に対してわずか1週間程度で絶望症状を生じさせると報告している」などとまじめくさった顔をして話し、自分たちは科学の知に貢献しているのだと考えている。ここであげられている「主要な」研究2報は、「ストレス要因の発生と絶望を示す出来事の生じるまでの時間を測定し、最初の絶望のうち60%がストレス原因となる出来事と結びついていることを発見し」、「本来ならば健康であるべき患者のうち4分の1以上は、ストレス要因の発生後1週間以内に絶望し、患者の大多数は平均4週間以内に絶望した」ことを究明したのである。多くの人にとって、これはなんら新規性に富む話ではない。愛する人を失ったり、離婚したりした人が絶望するのは、「常識」であって、科学的研究によって確証したりする必要などないのだ。(National Institute of Mental Health, cited in ``Everyday life may cause depression,'' by Trisha Gura, Chicago Tribune, printed in the Sacramento Bee, July 31, 1994, p. A8) 心理学者はまた、一般に認められた高等教育機関でトレーニングを受けていて、科学的な実験手法における統計と論理に精通しているに違いない、とも見なされている。心理学者によってなされた研究の多くは、他の分野の科学者が行うのと同じぐらい厳格になされている。実際に、若い心理学専攻の学生たちの多くは、論理的思考や変数の取り扱い、p = 0.05 といった概念、対照研究の必要性、プラシーボ効果、標準偏差などを理解することを要求されているのだと知ったら、ひどく面食らうことだろう。彼ら学生たちの多くはまちがいなく、心理学のイメージをマスメディアから得ているのだ。彼らはジョイス・ブラザーズ博士やラス博士、シェア・ハイトとその作家、ソーシャル・ワーカーや超心理学者といったトーク・ショウ巡業をやっている連中を、「本物の」心理学者だと考えているのだ。あるいは、学生たちはフロイトやユングといった頭でっかちな哲学者のことを心理学者のあるべき姿だと考えている。精神科医を志す諸君にはたいへん残念だが、教師たちは君たちが科学者として思考することを望んでいるのであって、哲学者や想像力たくましい作家として思考することを望んでいるわけではないのだ。 そのうえ、心理学の分野に対する公衆の目は、無資格者やいかさま師に支配されている。このことは心理学専攻の学生よりも、むしろ心理学研究者にとって憤慨すべきことだ。大衆は、ニューエイジ療法や非論理的なエイリアン・アブダクション療法、無資格でいんちきな超心理学者、不合理なファシリテイティッド・コミュニケーション信奉者、狂信的な抑圧記憶・幼時虐待療法師、にせものの自己啓発セミナーなど、獲物を狙う危険な連中によって、絶え間なく偽物の心理学を吹き込まれているのだ。 まっとうに制御した条件下で研究を行っている心理学者に対してマスメディアがもっと関心を持とうとしないのは、いったいなぜなのだろうか?宗教心の篤い人は宗教心の薄い人に比べて利他的で誠実だ、などと根拠のない話を広めたいかさま師は、いったいどこにいるのだろうか?[R・F・パローツィアンの宗教心理への招待(Invitation to the Psychology of Religion, Scott Foresman; 1983)あるいは``実効性のない信仰''(Journal of Applied Social Psychology, 1975)] 満月は人を犯罪に駆り立てるわけではないとか、あるいは盲人がきわめて鋭い聴覚を備えているといった研究の話を拡めたマスメディアは、いったいどこにあるだろうか?幼時の記憶や証言は事実だという常識がまかり通っていて、ニューエイジ療法師が法廷でそう証言したとき、これに対して優秀な心理学研究者が異論を唱えた。だが、このとき注目を集めたのは、いったいどちらの方だっただろうか? おしまいに、学問的心理学者のほとんどはサイが存在するなどとは考えていないし、一般的な心理学の教科書のほとんどは超心理学が有効だなどとは書かれていないし、相応の考慮に値することだろうとさえ、書かれていない。このことは、心理学を通じて国民と人類を救おうと考えている若い学生の多くにとってショッキングな話に違いない。ワグナーとモネによると、アメリカの大学教授1,100人についておこなった1979年の研究において、調査対象となった心理学者のうちESPが存在するか、あるいは存在する可能性があると答えたのは、たったの34%だった。他の分野ではどうか比較してみよう:自然科学者(55%)、社会科学者[心理学者を除く](66%)、芸術・人文・教育学者(77%)。だがしかし、調査した心理学者のうち34%はサイなど存在しないと信じている。これは困ったことだ。解答者のうち、サイが論理的に検証不可能だとしたのは、わずか2%にすぎなかった("Attitudes of College Professors toward Extra-sensory perception," Zetetic Scholar, 5, 7-17.)。しかし、私たち教育に携わる者なら誰でも知っているとおり、80年代、90年代になると、これがまったく変わってしまった。問題の深刻さは今後の研究を待つほかないが、超心理学者(チャールズ・タート)がカリフォルニア大学デービス校で終身在職権を獲得し、教科書はどんどん流行を追って相対主義的でオープンマインドになってしまった。おかげで心理学の「科学」たる名声の未来は暗いように思われる。風変わりで基地外じみたものを求めてやまないマスメディアは、ここでも何の手助けにもならない。 関連する項目:共依存(codependency)、ファシリテイティッド・コミュニケーション(facilitated communication)、催眠術(hypnosis)、記憶(memory)、多重人格障害(multiple personality disorder)、ニューエイジ療法(New Age Therapies)、抑圧記憶(repressed memory)、抑圧記憶療法(repressed memory therapy)、潜在虐待療法(substance abuse treatment)、ペニス・プレチスモグラフ(the penile pleythysmograph)。 参考文献読者のコメント
Baker, Robert A. They Call It Hypnosis (Buffalo, N.Y.: Prometheus Books, 1990). $27.95 Dawes, Robyn M. House of Cards - Psychology and Psychotherapy Built on Myth, (New York: The Free Press, 1994).$17.95 Dineen, Tana. Manufacturing Victims: What the Psychology Industry is Doing to People (Montreal: Robert Davies Multimedia Publishing, 1998).$16.99 Dineen, Tana. "Psychotherapy: The Snake Oil of the 90's?" in Skeptic, vol. 6 no. 3, 1998. Postman, Neil. Technopoly (New York: Alfred A. Knopf, 1992). Spanos, Nicholas P. Multiple Identities and False Memories: A Sociocognitive Perspective (Washington, D.C.: American Psychological Association, 1996). $29.95 Stanovich, Keith E., How to Think Straight About Psychology, 5th edition (Addison-Wesley, 1997). $25.31 Storr, Anthony. Feet of Clay - saints, sinners, and madmen: a study of gurus (New York: The Free Press, 1996). $10.40 Singer, Margaret Thaler and Janja Lalich. Crazy Therapies (San Francisco: Jossey-Bass, Inc., 1996). $16.45Review. |
Copyright 1998 Robert Todd Carroll |
Last Updated 12/10/98 日本語化 04/02/00 |