数秘術
numerology
数字とその人間の生活に及ぼす影響について、オカルト的な意味を研究すること。
パレード誌に掲載された広告によると[1996年2月25日号]、数秘術の決定版となる教科書は、MIT卒で、かつて建築会社の人事課で働いていた、マシュー・グッドウィンが書いたものだ。彼は``この数字の科学''(彼はそう書いている)を、職場の事務員から学んだ。この雑誌広告は記事に似せた``インフォマーシャル''で、J・J・レオナルドなる人物が書いたことになっているが、おそらくグッドウィン自身が書いたものだろう。というのも、この広告は、9ドル送って``80ドル以上''の価値がある数秘術の診断を受けてみよう、と言っているにすぎないからだ。広告の中で、彼はなぜ数秘術が有効なのか説明している。
すべてはあなたの名前と生年月日からはじまります。これらはデータベースであって、数秘術師はそこからあなたについて述べたり、隠されたことがらを見通すことができるのです。名前の文字一つ一つには、それぞれ数値をあてはめます。数秘術師はこれらの数を生年月日の数とともに何通りも足しあわせて、あなたの鍵となる数字を算出します。そしてこれら鍵となる数字の意味を解釈して、あなた個人の特徴を完全に見通すのです。
グッドウィン氏によると、数秘術を通じて``あなたは種々雑多な性格の特徴や、いったいどうやってそうした性格が形成されたのか、すべて見通すことができる''のだそうだ。こうやって、``今までおよそ不可能だったようなやり方で、強さを得る''ことができるという。
では、(a) 名前のつづりと生年月日から計算した1組の数字から自分が何者であるかや人生で何をすべきかがわかるとか、あるいは(b)ただの会社員がこうした数字を解釈する方法を見つけ出した、などといったことが現実に起こる可能性は、いったいどれぐらいだとあなたは考えるだろうか。私なら、そんな可能性はほとんどゼロだと思う。だがしかし、数秘術を否定するには、その背後にある理論を詳しく検証することが不可欠だろう。私たちは、その理屈はわからないけどとにかく数秘術は効果があるんだ、というグッドウィン氏の言葉を受け入れてしまいがちである。つまり数秘術は、占星術やバイオリズム、マイヤーズ・ブリッグス性格テストと同じように、あなたに“解答”を与えてくれるのである。そしてあなたはこうした解答がたいへん“正確”に出てくるので、びっくりするのだ!自分がどれほど選択的思考に陥ってしまい、その結果解答の正確性に幻惑されてしまっているかに、あなたは気づくことはないのだ。
解答を受けとると、あなたは自分に当てはまる部分にだけ注目して、自分にまったく当てはまらない部分については無視してしまっているはずだ。あなたが注目しているこれらの解答の中には、実際にあなたに当てはまっているものもあるだろうし、またあなたがこうありたいと願っているイメージに当てはまるものもあるだろう。いずれにせよ結果は同じだ。もしあてはまるなら、あなたはそれを信じ込んでしまうことになるのだから。もう一歩踏み込んで、“友情の”霊能ホットラインなど個人的な霊能者に電話する人もいるかもしれない(だが数秘術診断を9ドルで受ける方が安上がりだとは思う)。数秘術の証言と電話での霊能診断はよく似ている。結婚生活は救われ、仕事はうまくいき、個人の悩みは解決し、恋人も見つかるのだから。
数秘術や霊能者が魅力的なものとなる、その理由のいくらかは、たとえあなたのことを何一つ知らない赤の他人であっても、あなたに隠された力が満ちていると言ってくれ、あなたの最も深い欲求と感情を裏打ちしてくれる、そんな人を求めているからだ、私はそう思う。時として、私たちはみな愛されていないとか誤解されているとか感じるし、困惑したり指針を失ったような感覚を味わう。証言は耳に心地よく聞こえるものだし、満足した顧客こそが友人となる。そして私たちはか弱い存在なのである。一方、未来や過去、現在についてオカルトの託宣を与えてくれる者を待ち望んでいる人は数多くいる。誰か他の人がこれらを占って、どうすればよいか教示を与えてくれる限り、未来も過去も現在も、たいした問題ではないのだ。
だがしかし、数秘術が、たとえば手相や水晶など数字を使わない他の性格分析や占いをしのぐ真の魅力を備えているのは、数字を使うことによって、とくに複雑な統計分析が使われることによって、科学と神秘の両方の権威という、まがい物のオーラをまとっているということである。上述のグッドウィン氏の$9ドル数秘術診断では、数秘術の母体としてピタゴラスを引用している。たしかに、ピタゴラス学派は天体の調和など、世界と数についての密教的な概念を持つカルトだった。それに、彼らは私たちがピタゴラスの定理の名で知っている三角形の3辺の関係の中に、何か神秘的なものを見いだしていた。このことは間違いない。だが、ピタゴラスが弟子たちの性格を、名前と生年月日を数字に置き換えて分析できたなどという証拠はない。グッドウィン氏はまず何よりも、こうしたアイデアが不合理だということに気づくべきだっただろう。言語が違えばアルファベットも異なるし、文化が違えば月日の数え方だって違ってくる。この世界が名前を数字で置き換えたもので構成されている、などと考えるのはじゅうぶん不合理なのだが、文化の相違にを吸収するために等しい数字への置き換え法がある、などと考えたら、信頼限界は無限に引き伸ばされてしまうではないか。もし仮に、世界がそんな不合理にデザインされていたとしても、ある人の数字による“解答”が“正しい”のかどうか、どうやったら解るのだろうか?“正しい解答”という思いつきには、いわゆる学問的方法論の観点で、意味があるのだろうか?
数式に還元されることで、この世界の多くのことがらが説明されうる、ということは、知っておくべきだろう。こうした数式は、はたしてそれが正確かどうかを、検証・実証することができる。あなたが生まれたときにもらった名前が生年月日とともに運命を支配しているとか、名前と生年月日が特定の数字を構成していて、ある特殊な人たち(つまり数秘術師のことだ!)なら、そこからあなたが何者であるかや、あなたがどんな人になるか、あなたが何を望み感じているか、そしてあなたがどうすべきかを算出できる、などという主張は、これとはまったく別物なのだ。アカデミアに入門した弟子たちに幾何学を説いたプラトンや、あるいは世界は数学という言語で叙述されていると断言したガリレオと、名前が自分自身を知る鍵となるという思いつきのあいだには、ものすごく大きな隔たりがある。数秘術の連中が、数学の秘儀や数学に魅せられた科学者を引き合いに出して自分たちの同輩扱いするのは、歴史解釈の誤りである。いずれにしても、もし仮にピタゴラスやプラトン、ケプラー、ガリレオ、アインシュタインがみな数秘術師だったとしても、数秘術が妥当だということにはまったくならない。
関連する項目:占星術(astrology)、聖書の暗号(the Bible Code)、バイオリズム(biorhythms)、エアハード・セミナーズ・トレーニング(est)、フォアラー効果(the Forer effect)、選択的思考(selective thinking)。
参考文献
Equidistant Letter Sequences in the Book of Genesis The real meaning of the Bible is written in code comprehensible only to numerologcal cryptologists blessed with training in statistics.
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