創造論者と創造科学
Creationists and Creation Science
創造論者とは、聖書の創世記に記されている宇宙の創成についての記述を、寓話などではなく文字どおりの真実だと信じている人々のことである。創造``科学''とは、創世記が宇宙の起源について科学的に記述されたものだと信じていることを表明している、ある特定の創造論者たちが用いるものである。聖書をこのように読んでしまうとビッグバン理論や進化論と矛盾してしまう。したがってビッグバン理論や進化論は間違いであり、これらを信奉する科学者は宇宙の起源や生命の誕生について真実を知らない愚か者だとされる。科学的創造論の主要な指導者の一人に、創造研究所 (Institute for Creation Research) のデュエイン・T・ギッシュがいる。創造研究所は創造科学を振興し、ギッシュの進化:化石記録の挑戦 (Gish's Evolution, the Challenge of the Fossil Record, San Diego, Calif.: Creation-Life Publishers, 1985)や、進化:化石はノーと言っている (Evolution, the Fossils Say No, San Diego, Calif.: Creation-Life Publishers, 1978)などの書籍を出版している。この運動のもう一人の指導者は科学的創造論センター (the Center for Scientific Creationism) のワルト・ブラウンである。
創造論は形而上学的な宗教理論であり、その信奉者が主張するような科学理論ではない。したがって、創造論はその定義上、疑似科学である。ある理論が科学的でないと判断される一つの徴候に、自説が絶対的に正しく反論することは不可能だと主張する、というものがある。ある理論が絶対的に正しいなどと、経験的に検証することはできないのだ。無謬性の主張と絶対的真実への欲求は、科学ではなく疑似科学の性質なのだ。創造論は非科学的理論の好例である。反証不可能だからだ。``私は、私の知る限りあらゆる進化論について、その妥当性を否定するような観察や実験を思い描いてみせることができる、''進化生物学者のスティーブン・ジェイ・グールドはこう書いている。``だが、創造論者の場合はどんなデータを見せたら理論を放棄するのか、私には見当がつかない。議論不可能なシステムは教理であって、科学ではない''(グールド、1983)。いわゆる``科学的創造論''を疑似科学たらしめているのは、科学的理論化とは何一つ共有しておらず、にもかかわらず自らを科学として認めてしまう点である。創造論は永遠に理論として変わることなく存在し続けるだろう。創造論は宇宙の根本的構造に関する科学者の議論には、一石を投じることもないだろう。創造論は、理論を検証するのに用いることができるような、経験に基づく予測を生み出すことはない。創造論は反証不可能とみなされている。反証するような証拠は、何一つ受け入れられないだろう。
しかし科学史は、科学理論が永遠に変わらないわけではないということを明白に示している。科学の歴史は、ある絶対的真実が別の絶対的真実の上に建てられることの繰り返しではないのだ。むしろ科学の歴史は、理論化して、検証して、議論して、改良して、却下されて、置き換えて、また理論化して、また検証して、と続いていくものなのだ。科学の歴史は今現状でうまく働く理論の歴史であり、異常現象が起きれば(つまり既成の理論では説明のつかない新事実が発見されれば)新しい理論が提唱されて、ついには暫定的であれ完全にであれ、古い理論にとって代わるのだ。
もちろん、科学者が非科学的な、教理的な、不誠実なふるまいをすることもありうる。しかし、科学の歴史の中に奇人変人やいかさま師がわずかばかりいるからといって(あるいは誠実な天才的人物が疑似科学の中にいるからといって)、科学の疑似科学も同じだということにはならない。科学的議論は公開の場で経験論的に行なわれるという性質を備えているから奇人変人は見つけ出すことができるだろうし、誤りも訂正されるだろう。そして誠実な真実の探究だけが勝ち残るだろう。これは創造論のような疑似科学では行なわれないだろう。疑似科学は誤りを修正するどころではなく、誤りを検出する方法すら備えていないからだ。
創造論のような類の理論はきわめて大雑把であいまいなので、何でも予言できてしまう。こうした理論は原理的にも反論を許さないものだ。すべては理論において一貫していて、明白な矛盾や反論さえ一貫性を強化してしまうのだ!科学理論ならば具体的な予測を与えることができる;科学理論は原理的に反論できる。ビッグバン理論や定常宇宙論なら、実験や観察で検証することができる。創造論のような形而上学の理論は、内的一貫性を備えてさえいれば、つまり自己矛盾する要素さえなければ``完璧''なのだ。科学理論に完璧はありえない。
創造``科学者''が科学の分野、たとえば熱力学の第2法則に挑む場合、彼らは科学を知っているかのように取り繕って欺瞞や誤説に走るため、評判が悪い。しかし、こうした悪名を関することはないだろう。なぜなら、彼らがばかげた科学的説明をおこなうのは、たんに科学を語る能力がないせいだろうからだ。
しかしながら、宗教グループの主張する宇宙論は科学的なものだったりする。たとえば、もし宇宙が紀元前4,004年に創造されたという理論を唱えて、しかし地球が数十億年前にできたと証拠が示しているとしよう。この場合、理論は証拠によって反証されうる科学的主張になる。しかし、もし例えば、神は宇宙を紀元前4004年に、化石も含めて地球がさも数十億年前にできたかのような姿として創造した(たとえば私たちの信仰心を試すために、あるいは私たちには知ることのできない神の計画のために)、というようなその場しのぎの仮説をひねり出したとすれば、この宗教理論は形而上学となってしまう。反証不可能なのだ。完璧なのだ。この主張を造ったのはフィリップ・ヘンリー・ゴスである。彼はダーウィンの時代に、創造(オムファロス):地理学の結節点を統一する試み (Creation (Omphalos): An Attempt to Untie the Geological Knot)という名の本を1857年に著した。
もし、一方で化石の年代測定技術を糾弾しておきながら、他方でそれが宗教的理論における真実と符合している、理論との一貫性があるなどと、よく調べもせずに判断したりするなら、その理論は形而上学である。もし宗教的宇宙論者が、科学的検証によって地球が非常に若いと証明したからというだけで、地球が数十億年前に出来上がったということを否定するなら、この場合、化石の年代測定に用いる標準的な科学的手法や技術が誤りだと証明する義務を負うのは、宗教的宇宙論者の側である。そうでなければ、合理的な人は誰もそのような裏づけのない主張を信じたりはしないだろう。なにしろ、科学者すべてが誤りだと言っているのに等しいのだから。
疑似科学的な宗教的宇宙論の非科学性は明らかなのだが、これは事実をあらかじめ考えておいた理論に合わせてこじつけようと躍起になるからだけではない。こうした傾向は人間なら誰でもあるし、科学者にも影響を及ぼすからだ。むしろ創造``科学者''の非科学的な性質は、絶対的真実がすでに明らかとなっていて、真実を求める科学的探究など必要ない、という信念の方に明確に表われている。創造``科学者''にとっては、真実はつねに疑問を投げかけられたり、洗練したり、あるいは却下されたりするようなものではないのだろう。創造``科学者''にとっては、真実は永遠に保持して護っていけるだろうと信頼された特別な人間にのみ与えられるようなものなのだろう。
創世記で示されているような宗教的宇宙論を信奉しながら、これを科学的だと主張したりはしない、そういう人はたくさんいる。こうした人たちは聖書を科学の教科書と見なしたりはしないのだ。彼らにとって聖書は自分たちの精神的な生き方にもっとも適した教えを与えてくれるものだ。聖書は、神とは何者か、そして神と人とこの世界との関係といった霊的なことがらについて、考え方を示してくれる。こうした人たちは科学的発見と矛盾するような場面にでくわしても、聖書を字義どおり捉えたりはしない。つまり聖書は霊的メッセージとして読むべきであり、生物学や物理化学の勉強ではないのだ、そう彼らは言っている。
創造科学の信者は、聖書版の創造論をアメリカの公立学校で科学として教えるようキャンペーンをおこなった。彼らの成功例のひとつはアーカンソー州で、ここでは公立学校で創造論を教えるよう定めた法律が可決された。しかし1981年、連邦裁判所はこの法律を憲法違反だとして、創造論は基本的に宗教であると宣言した。1982年にはルイジアナの法律についても同様の判決が下されている。
これに対して、創造論者たちは 進化は事実でなく、ただの一理論にすぎない などと力説している。一方、カール・セーガンなど科学者たちは 進化は事実であり、ただの一理論ではない と力説している。スティーブン・ジェイ・グールドは、進化は事実でもあり理論でもある、と主張している:進化が起きたことは事実だが、進化が起きたメカニズムは理論上のものなのである。グールドはこう述べている ``ダーウィンはつねに、2つの異なる業績について強調していた:進化の事実を確立したことと、進化のメカニズムとして自然選択という理論を提示したことだ。''ドーキンスが提唱した理論は、大変実りのある議論を巻き起こした。創造論者は科学の不確かさを非科学性と誤認しているので、この議論を進化論者の間での結束の弱さだと見ている。一方、科学者は不確かさを科学的な知に必然的に伴う要素だと見ている。科学者は理論の根本にかかわる議論を健全かつ刺激的なものと見ている。科学とは、グールドによれば``興味深いアイデアやその意味するところを読み取ったり、古い知識が全く新しい方法で説明できるとわかったりしたときには、たいへん楽しいものだ。''したがって、進化のメカニズムに関する議論すべてを知っていれば、進化が起きたことを疑う生物学者はいないのだ。``私たちは進化がどうやって起きたのかを議論しているのだ''とグールドは語っている (1983, p. 256)。
訳者コメント:アメリカの進化論教育裁判は、日本でもマスメディアの話題に上ることが多い。ニューメキシコ州では創造論と進化論を併置して教えるよう定めた州法があったが、全米科学アカデミーと科学的懐疑論者の活動によって、昨年撤廃された。今まで科学者と教育者は進化論の適切性を科学的に議論していただけだったため創造論者に敗れてきた。だが今回は、政治的に法廷闘争を展開した。つまり、創造論者の政治的やり口を科学的に評価検討して、自分たちの力としたわけだ。詳細は Skeptical Inquier 2000年1/2月号に掲載されている。
関連する項目:神 God、疑似科学 pseudoscience。
参考文献
- National Center for Science Education Scientific Evolution vs. Metaphysical Creationism
- "Thermodynamics, Creationism, and Evolution" by John Patterson
- "Science, Creationism, and the U.S. Supreme Court" by Al Seckel
- Debating Creationists
- The General Anti-Creationism FAQ
- Edis, Taner, Annotated Bibliography
- "Religion, Science, and Law: Defining the Science in Scientific Creationism" by Dov Wisebrod
- Lippard, Jim, Review of Duane Gish's Creation Scientists Answer Their Critics
Cramer, J.A., General Evolution and the Second Law of
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(American Scientific Affiliation, Elgin, IL, 1978).
Dawkins, Richard. River Out of Eden: A Darwinian View of
Life (1995, BasicBooks). $8.00
Dawkins, Richard. Climbing Mount Improbable (1996 Viking Press). $11.96
Ferris, Timothy. The Whole Shebang : A State-Of-The-Universe's Report (Touchstone, 1998). $11.20
Gardner, Martin, Fads and Fallacies in the Name of Science
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Gould, Stephen Jay, "Darwin and Paley Meet the Invisible
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スティーブン・ジェイ・グールド, ニワトリの歯 -- 進化論の新地平 --.渡辺政隆・三中信宏 訳.早川書房.
Gould, Stephen Jay, Ever Since Darwin, (New York:
W.W. Norton & Company, 1979).$9.56
スティーブン・ジェイ・グールド, ダーウィン以来−進化論への招待−.浦本昌紀・寺田 鴻 訳.ハヤカワ文庫.
Schadewald, Robert. "Creationist Pseudoscience," in
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Shermer, Michael. Why People Believe Weird Things: Pseudoscience, Superstition, and Other Confusions of Our Time, chs. 9-11, (W H Freeman & Co.: 1997) $16.07 マイクル・シャーマー.なぜ人はニセ科学を信じるのか UFO、カルト、心霊、超能力のウソ.岡田靖史 訳.早川書房.
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