魂、霊
soul, spirit
知覚と生を担う非-物理的存在。魂はしばしば不死の存在と信じられている。
人間の願望を満足させるような存在が発明されたのだとしたら、魂こそがそれにあたる。トマス・ホッブズが指摘したように、非-実体的な実体などという概念は矛盾している。非物理的存在が生と知覚を担う、などと想像するのは不可能である。魂の存在を信じる人々でさえ、魂を人間の形をした雲や霧のようなイメージでとらえているのだ。魂という概念が想像可能だと信じるのは、迷妄である。しかし、何十億もの人々が、あらゆる空間を旅することができ、感覚器官をまったく持たないのに空中の振動や波動を知覚することができる、非-空間的な知覚体が存在すると信じているのである。
哲学者や心理学者は、人体と何らかの交互作用をする非-物理的存在を仮定した上で研究をおこなってきたが、意識の働きを理解するのには役に立たなかった。その代わり、人間の意識にかんする知識の拡大を妨げ、無知と迷信を広めてしまったのである。意識を脳機能の観点から探ろうとするものや、`精神'の疾患を物理的問題として捉えようとするものこそが、もっとも有効な研究なのである。非-存在の治療には非-存在の専門家が必要だと信じ込ませることに成功した2つの巨大産業は、おおいに金を儲けている:聖職者と心理学である。第3の産業である哲学も繁盛しているが、これも魂という概念の恩恵に浴するところが大きい:多くの善き哲学者は魂が存在するという仮定のもとに本を書く。そしてその一方で、多くの善き人がその本を批判して、食い扶持を稼いでいるのだ。懐疑論者と本物の信者は両方とも、魂を必要としているのである!
関連する項目:アストラル・プロジェクション (astral projection)、二元論 (dualism)、唯物論 (materialism)、意識 (mind)。
参考文献
Epicurus. The Essential Epicurus, translated with an introduction by Eugene O'Connor (Buffalo, N.Y.: Prometheus Books, 1993).
Freud, Sigmund. The Future of an Illusion, translated from
the German and edited by James Strachey (New York: Norton,
1975). ジークムント・フロイト.ある幻想の未来.フロイト著作集 第3巻に収録.高橋義孝他 訳.人文書院.
Hobbes, Thomas (1588-1679). Body, Man, and Citizen, Elements of Philosophy and Leviathan.
Ryle, Gilbert. The Concept of Mind (Chicago: University of Chicago Press, 1984).
Sacks, Oliver W. The Man Who Mistook His Wife for a Hat and Other Clinical Tales (New York: Harper Perennial Library,
1990).
Sacks, Oliver W. A Leg to Stand On (New York: Summit Books, 1984).
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