Robert Todd Carroll SkepDic 日本語版 |
確証バイアス confirmation bias“人は否定よりも肯定によって動かされ、かきたてられる。 確証バイアスとは、選択的思考の一種である。確証バイアスによって人は信念を獲得し、その信念を確証するものを探そうとする。一方、信念に反することがらを探すのではなく黙殺したり、あるいは低い価値しか与えなかったりもする。たとえば、満月の晩には事故が多発する、と信じている人がいたとしよう。この場合、その人は満月の晩に起きた事故だけに注目してしまい、満月の晩以外の日に起きた事故に注意を払ったりしなくなってしまうだろう。こうしたことが繰り返されると、満月と事故が関係しているという信念は、不当に強化されることになる。 このように、最初に抱いた先入観や信念を裏付けるデータを重用して、これに反するデータを軽んじようとする傾向は、先入観や信念に根拠が乏しく、ほとんど予断とかわらないような場合に、いっそう顕著になる。信念が確固たる証拠や有効な確証実験によって裏付けられている場合には、信念にかなうデータを重用しようとする傾向があっても、ふつう誤りに迷い込むことはない。もし、本当に仮説を論破するような証拠にたいして眼をつぶるなら、合理性の一線を踏み超えて心を閉じてしまうことになる。 人は確証的な情報、つまり自説に有利だったり、自説を裏付けるような情報には、過剰な信頼を寄せる。このことは多くの研究で明らかにされている(ギロビッチ、第3章)。トマス・ギロビッチは、“確証的な情報によって過剰に影響されるのは、おそらく認識論的に扱う(不利な情報を無視してしまう)方が楽だからだろう”と述べている。一片のデータだけで、どれだけ自説を裏付けられるかを見るのは、反論に資するデータを挙げて述べるのを見るよりも、ずっと容易である。ESP や千里眼の実験について見てみたらいい:成功例はしばしば明瞭な結果にもとづいていたり、データは簡単に改変されて成功例に加えられたりするが、失敗例はそれが有意に失敗であるとみなすだけでも、たいへんな知的努力を必要とする。自説の支持し確証することがらを重用する傾向は、記憶にも影響する。自説について記憶にあるデータを深く探っていけばいくほど、自説を裏付けるデータばかりが浮かび上がってくるのである(ギロビッチ)。 研究者は、自分の仮説を確証するように実験を設定したり、データを取ったりするので、時として確証バイアスに罪悪感を抱く。彼らは仮説に反するデータを扱おうとはしないので、問題はさらに複雑化する。たとえば、超心理学者 はESP実験の開始と終了を恣意的に決めるので、評判が悪い。社会科学者の多く、とくに、恣意的に設定した歴史時代について、生成された順序と`激変説'といった不明瞭な変数のあいだに相関を見出そうとするような科学者も、確証バイアスの点では同罪である。データ取りの開始と終了をいつ行なうかを、フランク・スロウェイが Born to Rebel でおこなったように進化論的視点にもとづいて定義するのであれば、機能的な生成の順序と進化論を受容するか拒否するかのあいだに有意な相関を見出すことができるだろう。しかし、アナクシマンドロス Anaximander からはじめて聖アウグスチヌスまでで終了するなら、結果はまったく違うものになるだろう。なぜなら、彼らのアイデアは、当時はまったく受け入れられなかったからだ。あるいは、`激変説'の例を、たとえば フィリップ・ヘンリー・ゴス Philip Henry Gosse が Creation (Omphalos): an attempt to untie the geological knot (1857)で用いたようなものとするなら、こうした仮定を裏付けるデータは得られないだろう。ゴスは地質学上のデータを創造論に適合させようとしている点ではダーウィンより過激だった。しかし、神が化石を含めてすべてをいちどに創造した、とする彼の過激な思想は一般に否定されたため、今ではゴスの名は忘れ去られている。ゴスは、地球の年齢がきわめて古いとする科学的データを、ウッシャー大司教 Archbishop Ussherが算出したとおり、神が紀元前4004年にすべてを創造したという伝統的な説に適合させようとした。前成説も後成説も、ともに彼の激変説には何の影響も受けなかったようだ。 研究者は、反対意見を支持する研究者とともに実験計画を共同で作成するなどして、確証バイアスを避けるか減らすかしなければならない。各個人は、確証バイアスについて常に念頭に置いておき、反証データをよく吟味しなければならない。こうしたことがふつう行なわれないせいで、ふつうの人はバイアスで身を滅ぼすのだ。 関連する項目:その場しのぎ仮説 (ad hoc hypothesis)、組織的強化 (communal reinforcement)、対照研究 (control study)、オッカムの剃刀 (Occam's razor)、因果の誤り (the post hoc fallacy)、選択的思考 (selective thinking)、自己欺瞞 (self-deception)、主観的な評価 (subjective validation)、ないものねだり (wishful thinking)。 参考文献読者のコメントEvans, B. Bias in Human Reasoning: Causes and Consequences (Psychology Press, 1990). $27.95review Gilovich, Thomas. How We Know What Isn't' So: The Fallibility of Human Reason in Everyday Life(New York: The Free Press, 1993) $12.76 Gould, Stephen Jay.The Flamingo's Smile (New York: W.W. Norton & Company, 1987). $11.96 (contains an essay on Omphalos) |
Copyright 1998 Robert Todd Carroll |
Last Updated 12/03/98 日本語化 09/12/99 |